井上 朋子 医師

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高校時代から心理学や教育に興味を持ち、一時は文系学科への進学を志したこともあります。けれど、職業としての可能性の広さから医師への道を選びました。シビアな状況で命をまるごと任される救命救急で鍛えられることで、心と体を分けることなく診療できる力をつけて、ひとりでも多くの患者さんを救える医師になりたいと思っています。

先輩医師が夢中で語る救命救急の世界に惹かれて・・・

学を控えていくつかの大学のオープンキャンパスを訪ねるうち、私が興味を持っている心理学を学んでも、仕事として成り立つような職業がそう多くはないという現実を知りました。父が医師だったこともあって、心療内科医や精神科医が選択肢のひとつとして浮かび、最終的に兵庫医科大学に進学しました。医師の資格を持ったうえで、心理学への興味や知識を生かしていこうと思ったからです。
救命救急の面白さを知ったのは、5年次の最初の病院実習のときです。橋本篤徳先生と一緒に当直をさせていただき、ドラマチックな初療を体感しました。6年次は自分から志願して救命救急に来て、山田太平先生のチームの一員として実習させていただきました。当時から、チームワークがとてもよく、雰囲気のいい職場だなと感じていました。
実習の後、橋本先生たちが食事に連れていってくださったことがあるんです。おそらく勧誘のためだったと思うんですが、すぐに救命救急の話に夢中になって、勧誘らしい話は何もなく・・・それだけ没頭できる仕事なのだと伝わってきましたけどね(笑)。

心と体との関連性を学ぶためにも、まずは全身管理から

だからといって、すぐに救命救急センターに入ろうと決めたわけではありません。あくまでも第一志望は心療内科でしたので、ほかの大学病院の心療内科見学にも行きました。
内科医であることを前提に心も診る、心と体を分けることなく診療するためには、心ばかりに偏らず、身体をしっかり診る力が欠かせないと教わりました。私の理想のゴールに近づくためには、循環器だけ、消化器だけといった臓器別の研修よりも、命をまるごと任される救命救急のほうが適しているのではないかと考え、改めて救命救急センター入りを希望したんです。

患者さんの背景を慮り、残り時間を増やすために尽くす

pic_inoueセンターの一員となって2年たちましたが、実習時代の印象そのままの雰囲気のいい職場で、毎日が充実しています。センターに運ばれてくる患者さんは、生命の危機にさらされていると同時に、社会的な背景を持っておられるものです。まず、ご本人の命を救うために力を尽くすのが第一ですが、さらに、治療の余地を残すためにも、ご家族や関係者の方々のためにも、1分1秒でも「残り時間」を増やすことが私たちの務めです。
自分の成長を実感する余裕はないし、たった4年で成長しているなんておこがましくて言えません。それでも、急変を聞いて病棟に駆けつけ、自分が動いて患者さんの命を救うことができたときは、急性期のプロとして少しは貢献できたかなぁと感じることができました。また、3月11日の東日本大震災の後、避難所に入って体当たりで心のケアを経験できたことは貴重な経験でした。
病院でも被災地でも、自分に足りないことが山ほど見つかって、一日一日密度の濃い時間を過ごしています。すべてを知り尽くすことは一生かかっても無理だと思いますが、心療内科医としての将来に役立つよう、ポイントを押さえて学びたいと思っています。

生死の境に立ち会う現場で、できること・できないことを知る

将来的にどの科に進むにしても、患者さんを預かるからには、急変する可能性は常にあります。慢性期の方であっても急変はありますし、心療内科や精神科の患者さんが、急性疾患で倒れることもあります。
主治医である限り、生死の境に立ち会う責任を負わねばなりません。自分に何ができて、何ができないか、できないなら誰を連れてくればいいかを判断できることが大事。患者さんにとって“最後の砦”である三次救急で何ができるのか、何をしているのかを、医師人生の早い時期に経験しておけば、患者さんに還元できることが増えると思います。