滿保 直美 医師
10代の頃からカウンセリングに興味を持ち、精神科医を目指していた大学時代、くも膜下出血で倒れて、この救命救急センターに搬送されました。体力的にも性格的にも、救急に向いているとは思いませんが、体の変化を訴えるのが苦手な精神科の患者さんに対し、医師の側から最初のアクションを起こせるよう、身体科の経験を積んでおきたいのです。
医学にしかできない力が発揮できる救命救急の凄み
看護師をしていた母が、人体に関する質問に色々と答えてくれたので、幼い頃からぼんやりと医療の仕事に憧れていました。また、心理の世界も好きだったので、精神科医になろうと兵庫医大に進んで勉強に励んでいました。ところが在学中のある日、自宅に一人でいたときに、具合が悪くなって倒れてしまったんです。
かなり危ない状態だなと自覚しつつも意識は残っていたので、自分で119番に電話しながら、「頭蓋内で出血していると思う」と訴えました。救急隊員の方は半信半疑の様子でしたが、私が兵庫医大の学生であること、どうしても大学病院の救急に運んでほしいということを、強く懇願したものですから、救命救急センターに運んでくれました。結果、脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血が起こっており、すんでのところで一命をとりとめたのです。
当時の私にとって、体力的にもタフで迅速な判断が必要な救急の世界は憧れの対象でこそあれ、現実的に進む道ではありませんでした。それでも、急性期には医学の力でしか人を救うことができないんだ、救急ってすごいんだなぁ、と心を動かされたことは間違いありません。
精神科に進むからこそ、短期でも身体科を経験しておきたい
入院生活から復帰して医師国家試験に合格し、スーパーローテートで集中治療の現場を見たときから、急に仕事としての救急に興味が沸いてきました。もちろん、第一志望である精神科での研修は本当に面白かったし、最終目標が精神科医であることは変わりません。外科より内科志向であることも変わりません。にもかかわらず、何か心残りがあったんでしょうね。2年目も救命救急センターを再訪してしまいました。そんな私の様子をご覧になっていた小谷先生が、「集中治療が好きそうだね」と声をかけてくださったんです。
卒業してすぐ精神科に進み、立派にやっておられる先生もたくさんいらっしゃるでしょう。でも私は、何をやるにも人より時間がかかるタイプ。身体科の経験を積まないまま精神科医になっても、体の変化を訴えるのが苦手な患者さんがいたら、第一歩目のアプローチがうまくできないかもしれない・・・。たとえ短い年月であっても救急に入って力をつけるというキャリアプランもあるのではないか、と考えるようになりました。
周囲の励ましがあるから、意欲が途絶えることがない
救急に来てから毎日いっぱいいっぱいですが、早く追いつかなければという意欲が途絶えたことはありません。体力的にきつくても、気持ちが元気ならついていけるものですね。それもこれも、シビアな仕事からは想像もつかないほど楽しい職場の雰囲気のおかげだと思います。周囲の皆さんから、常に励ましてもらっています。
初めのうちは、カンファレンスで先輩の先生につっこまれてばかりでしたが、決して怒られているわけではないですし、いい緊張感がありました。おかげさまで本当に少しずつではありますが、論理に合わないポイントを紐解きながら事実を推測していく力がついてきた気がします。
興味があれば、適性を気にせず飛び込んでみては?
個人的には、医師3年目なりの責任に応え切れていないという焦りもありますが、職場としては、学べることが本当に多い環境で満足しています。全身を見続ける機会がこれほど与えられる科はほかにないと思いますし、広く浅くではありますが、身体に関する知識が増えてきたという手ごたえもあります。将来精神科に行ったとき、“この一晩が山場”といった局面から、じっくり治療できる状態につないでいけるようになれたらいいですね。
まだ、はっきりした進路が決まっていない方は、あまり向き・不向きにこだわらず、興味があることなら飛び込んでみてもいいのではないでしょうか? 私だって続けているのだから、絶対に大丈夫(笑)。大学病院ということで毎年春に新しい研修医が入ってきて、新人の気持ちに戻ってやれるのも良いところだと思いますよ。