概要

救急医学医療としての研究では,外傷や疾病による過大侵襲と二次性臓器障害における生体反応の機序の解明と新しい治療法の開発を中心に展開しています。災害医学医療としての研究では,救急現場(病院前救護)をモデルとした災害現場と指導医療施設間で高品質な情報通信システムの開発を進めています。

研究紹介

骨髄未熟および末梢成熟好中球の侵襲下アポトーシス制御の研究:侵襲下好中球(PMN)のアポトーシス(Apo)抑制は炎症持続と臓器障害に関与することから、侵襲下幼弱・成熟PMNのApo誘導・抑制の機序について研究を進めている。これまでにエンドトキシン血症下成熟PMNのApoとBcl-2 family蛋白のanti-apoptotic A1発現がTNFRp55とp75に非依存的であること、骨髄細胞のPMN前駆細胞にTNFRp55依存性に大量のApoが誘導されることを発見した(Surgical Infection Society 2003 Award)。
 

侵襲下免疫担当細胞アポトーシス誘導におけるIL-18の役割の研究:IL-18 receptorおよびIL-1 receptorは、Toll-like receptor群と細胞内シグナルが同一で、まとめてToll-like/IL-1 superfamilyに分類される。Toll-like receptor 4のligandであるエンドトキシンが血中で検出されることは稀であるが、IL-18たいていの侵襲下の血中で検出され、しかもその濃度は病態を反映する事から、エンドトキシンよりも内因性IL-18の方が病態形成に関与しているとの仮説を立て研究を進めている。現在まで、マウス急性エンドトキシン血症モデルを用いて、内因性IL-18が骨髄幼弱好中球アポトーシス誘導、末梢および組織における好中球アポトーシス抑制を誘導すること、さらにリンパ球アポトーシスを誘導している事を発見した(Shock meeting 2010 Award)。
 

侵襲下免疫担当細胞アポトーシス誘導における性差の研究:一般的にヒトでも重症病態に置ける生存率は男性より助成で高い。我々はその機序を解明するためにマウス急性エンドトキシン血症もモデルで研究を進めて来た。現在まで、内因性IL-18の過剰反応が骨髄細胞のアポトーシス誘導、末梢および組織の成熟好中球のアポトーシス抑制に関与している事を発見している(日本エンドトキシン学会2009奨励賞)。
 

侵襲下好中球アポトーシスの免疫修飾栄養剤による制御機序の研究:既に、短鎖脂肪酸(C4,C3)がそのレセプター(GPR42, 43)を介さない経路で、おそらくはHDAC inhibitor作用により、そしてわずか3日の魚油の静脈投与によりヒトPMN産生をロイコトリエンB4からB5へシフトさせることで、それぞれApo抑制作用を解除することを発見し、臨床応用を図っている(日本学術振興会科学研究費補助金)。

急性膵炎(AP)におけるNO産生と膵腺傍細胞障害に対するIL-18の役割の研究:IL-18 遺伝子欠損マウスAPモデルでIL-18がiNOS sourceのNO産生を介して膵腺房細胞障害を来すことを明らかにした。
 

IL-18のヒトPMN Apoへの効果と機序の研究:IL-18がヒトPMNでAkt, ERK, p38 MAPKの活性化を介してApoを抑制する事を明らかにした。
サイトカインや自然免疫に関わる遺伝子多型と重度外傷と重症感染症後の生体反応の臨床症例における検討:既に集積した患者遺伝子は70例を超え、順調である。また健常人ボランティアの血液を用いてin vitroにおけるTNF-alphaとIL-18のプロモーター領域の遺伝子多型とこれらサイトカインの産生の関連を発見した。
 

敗血症におけるミトコンドリア機能傷害の機序の研究:敗血症における過剰な酸化ストレスによるミトコンドリア機能傷害に着目し、炎症制御法の開発をラット敗血症モデルで構築している。ラジカルスカベンジャー投与が、ヒドロキシラジカルを選択的に還元して抗酸化作用を発現し、ミトコンドリアDNA傷害(特に、呼吸鎖:complexⅡ)を回避し、さらに酸化酵素ogg-1誘導によりDNA傷害を修復する可能性を報告した。
 

敗血症性ショックにおける輸液の臨床的指標の開発:非侵襲的パラメータからDO2値を求め敗血症性ショック患者の至適輸液量を決定する方法を考案した。
 

デジタル眼底鏡の開発:非侵襲的脳圧モニタリングおよび小児虐待兆候発見の目的で、非散瞳下視神経乳頭持続観察のためのデジタル眼底鏡の開発をいくつかの企業の開発者達とともに行っている。うち数名は小谷教授の関西学院高等部時代の同級生です。
 

人工呼吸法PAVを臨床応用できる人工呼吸器の開発:新しい理論に基づいた人工呼吸法PAVが可能な人工呼吸器(SSV)を開発した。自動化機能の開発を進めている。
 

病院前救護における情報通信システムの開発:救急救命士の医行為が除細動,気管挿管,薬剤投与と拡大され医師の責任が広がった。本研究では現場の患者情報および救急救命士の処置情報をリアルタイムに指示医師へ届ける情報通信システムの開発を目指している。
 

 多数傷病者受け入れ時のトリアージ法の研究:阪神大震災、福知山線JR脱線事故などの経験から、効率的かつ、効果的な多数傷病者受け入れを目的とした、多数傷病者受け入れに対する独自のトリアージ法の構築を目指している。緊急災害時の病院前トリアージ法のみならず、入院患者を対象に院内スタッフの指揮系統やベットコントロールなどの統括法構築を災害訓練を通じて実践している。
 

放送メディアを用いた市民に対するAEDの普及啓発の研究:平成18~20年度の厚労科研により、本テーマを進めている。われわれの提案を契機として、NHK神戸放送局が平成19年度から兵庫県内向けのAED普及啓発キャンペーンを続けており、その支援を行うと同時に効果判定を継続している。TVキャンペーンが市民に認知されることは立証できたが、その効果は一時的であり、また実際の行動にまで結びつく強いインパクトを与える戦略を構築したい。
 

我が国のMass Gathering 医療の現状把握と体制構築:本テーマを目的として、の研究:全国のプロ野球本拠地球場における実態調査研究を行った.日常の医療・救護体制は経験に基づいて構築されており、調査対象期間中は破綻無く機能していた。しかし球場が集団災害医療体制の対象であるとの認識は、球場・監督行政機関ともに薄かった。今後調査対象を広げ、Mass Gathering環境が集団災害のハザードであるとの認識を啓発する戦略を構築したい。

 

将来の展望

多忙な救急治療業務と平行して、侵襲と生体反応、二次性臓器障害の発生機序の解明と新しい治療法の開発を進め、新知見を蓄積している。同時に、新しい分野である災害医学研究を行っている。今後は、さらに効率的な研究システムを工夫して研究を進めるとともに、研究成果の臨床および社会還元を推進する。