西村 健 医師

救急搬送に伴う緊急オペは、予定手術にはない判断力を求められます。すべての命を救えるわけではないため、自分にもっと知識と技量があれば…と感じることもありますが、回復された患者さんやご家族から「ありがとう」と言っていただけることは大きなやり甲斐。常に、「自分の家族だったらどうするだろう?」とイメージするよう心がけています。

緊急手術では高い判断力、決断力が求められる

pic_nishimura2私の生まれ故郷は岡山市内の田舎町。二人の姉が歯科医と薬剤師であることから自然と医療関係の仕事を身近に感じるようになり、過疎化・高齢化が進む町で育ってきたことで、人の死に直面する救急医療に興味を抱くようになりました。

初期研修時代から5年間を過ごしたのは300床くらいのアットホームな病院でした。救命救急を目指すためにもサブ・スペシャリティとして外科の専門性を身に付けたいと考えて選んだ進路です。ガンなどの手術を数多く経験して知識と技術を磨いてきたつもりでしたが、兵庫医科大学病院の急性医療総合センターに来てからは、緊急手術ならではの難しさに自分の力量不足を痛感する毎日です。その日に初めて接する患者さんが、重い外傷を負ったり急性腹症を起こしたりといった状態で搬送されて来ることがしばしばです。経験豊富な先輩医師たちが、短時間で何をすべきか、あるいはしないのかを判断していく様子は頼もしく、私も早く追いつけるよう努力せねばと思っています。

 

いい意味で想定外だったフレンドリーな雰囲気

入局してからもうすぐ2年になります。最近は、上の人から教わることばかりではなく、自ら決断を下すシチュエーションも増え、中堅医師としてレジデントの指導に当たるようにもなりました。大学病院は大きな組織ゆえに派閥もあって怖いところかと懸念していたのですが、急性医療総合センターはフレンドリーな雰囲気でほっとしました。センター長である小谷先生のほかにも、母校の先輩である中尾篤典先生、白井邦弘先生、山田勇先生には、外科出身の先輩としてご指導いただくことが多いです。また、他科の先生方も質問したことに対して丁寧に指導してくださるので、とても居心地よく働くことができています。

 

命を救えなかった悔しさをバネに学び続ける

救急医の業務は忙しいですが、妻も同じ医師ということで仕事に対して理解してくれていますし、休日に息子の顔を見るだけでリフレッシュになりますので、ハードだと感じたことはありません。ただ、すべての命を救えるわけでないので、患者さんの死に立ち合うときは辛い気持ちになることも。自分にもっと知識や技術があれば助けられたのではないか…という気持ちを学びへの意欲に変えて、文献を読んだり、他の医師に質問したり、外部の勉強会に時間をつくって参加したりしています。そして、どんな状態の患者さんに接するときでも、「もし、この方が自分の家族だったらどうするだろう?」とイメージして、次の一手を考えるよう心がけています。ときには、次の段階を考えて処置を止めるケースもありますし、もう救えないと判断した命をいかに見送るかを選択するケースもあります。どんな判断も責任を伴いますし勇気が必要ですが、少しずつ決断力がついてきたかなと感じています。

 

大学病院のメリットを生かしてステップアップを

pic_nishimura3いろいろな疾患を診るチャンスが多く、論文発表など学術的な機会もあることは大学病院の良いところ。とくに、世界的に活躍している小谷先生を介して、最新の情報が得られる点は恵まれていると思います。この救急センターに来て、敗血症の治療などに有効な血液浄化や体外循環、救急における栄養管理など、これまで知らなかった幅広い知識を身に付けることができました。たとえ職場を移ったとしても、外傷救急に携われるところで働き続けたいですね。将来は、外科をサブ・スペシャリティとする「手術もできる救急医」となることが目標です。