山田 太平 医師
救命救急の仕事は、学生時代からの憧れでした。まもなく5年目になりますが、いまだ、臨床研修時代の「オン・ザ・ジョブ・トレーニング」が続いているのかと思えるほど、変化の多い日々を送っています。日本の救命医療の未来を危ぶむ報道も多いですが、若い私たちが変えていけることが、たくさんあると思っています。
医師として体験者として実感する「119番通報」の重み
私が高校2年生のとき、身内が救急車で搬送されるという経験をしたからです。当時、医学部進学を目指していた自分にとって、とても大きな出来事でした。
患者さんやそのご家族にとって、「119番通報」は、困り果てた瞬間にとる選択肢でしょう。たとえ心肺停止の状態に陥っていたとしても、「命を救ってほしい」と願って、すがる思いで救急車を呼ばれるはずです。気持ちの重さとは裏腹に、受け入れる医師の側とすれば、条件は良くありません。入院や通院などで普段から診ている患者さんと違い、およその症状はわかっても、原因も経過もほとんどわからないことが多く、しかも状態は重篤なんですから・・・。そんな条件下にあっても、数分間で判断を下し、処置を施して命を救うという仕事は、医療の原点ではないかと思っています。
兵庫医科大学に在学中も、救命救急へ憧れる気持ちは揺らぐことなく、研修医時代から当センターで経験を積ませていただきました。2010年春でようやく5年目になります。
教科書に載ってないことを学び、ひとつひとつの命を救い続ける
一般の医局での診療が「守り」だとしたら、常に「攻め」の気持ちで現場に対峙するのが救命救急センターのやり方。人によって感じ方は違うでしょうが、私は「変化が楽しい」と感じる性格なので、診たことのない症例に対応して経験を積み重ねていくことが、やり甲斐につながっています。
私は、学生時代は文科系と体育会系のサークルをかけもちしていたし、医師国家試験も一浪したし・・・決して「勉強家」ってタイプじゃありませんでした。でも今は、「もし、こんな患者さんが来たら、どうしたらいいんだろう」と考えたり、専門書で勉強したり、仲間と研究したりすることが習慣になっています。
医学を志す人の中には、新薬研究を何十年も続けて、10万人を救う薬を世に送り出す人もいれば、私たちのように救急の現場に立ち、教科書には載っていないようなことを学びながら、ひとつひとつの命を救うという医療を積み重ねていく医師もいます。いろいろなアプローチ法があっていいんじゃないでしょうか。
良い仲間に囲まれているから、多忙でもストレスなく働ける!
9時から5時まででキッチリ終われる仕事ではないですし、休みが多い職場とも言えませんが、息をつく暇もないというわけではないですよ。私は、他病院の救命救急センターを経験していないので比較することはできませんが、当センターに限っていえば、スタッフ同士の仲がとても良く、ストレスの少ない職場だと思います。患者さんの症状が重篤で目が離せない分だけ、スタッフがベッドサイドで顔を合わせている時間が長く、コミュニケーションが密になっているからかもしれません。
それから、医師にしろ看護師にしろ、勉強家が多くて、誰もが仕事に対して前向きです。得た知識を共有することで、ひとつでも多くの命を救おうという気持ちに満ちているので、向上心のある人にとっては、とてもいい環境だと思います。
経験を積み、若い医師たちで日本の救命救急を変えていきたい
「ハードワークだろう」「生死と直面するシビアな職場」といったイメージだけで、救命救急を敬遠するのは、もったいないですね。特定の医局で学ぶのとは違い、あらゆる科の症例にあたることができますし、専門分野の違う医師から知識を吸収することもできます。また、年功序列の慣習もありませんから、自ら志願すれば、どんな分野の専門家を目指すことだってできます。私に後輩ができたら、これまでの経験で学んできたことを、精一杯伝えたていきたいと、今から楽しみにしているんですよ。
ベテランの先生方に比べると、知識や経験値はまだまだです。が、今のうちから一人でも多くの患者さんを診させてもらうことで、歳月をかけて救命救急の必要性や重要性をアピールするチャンスをつくることが若手である私たちの務めではないでしょうか。それが、人手不足や報酬の低さなど、日本の救命救急の問題点を改善することにも、つながっていけばうれしいですね。